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日本産ホタル10種の生態

1:ムネクリイロボタルCyphonocerus  ruficollis   

ムネクリイロボタル卵 ムネクリイロボタル幼虫 ムネクリイロボタル蛹 ムネクリイロボタル成虫
・分布 本州・四国・九州

・山地から丘陵部。街中の残留緑地、公園など多様な自然環境に適応して生活している。
・体長78mmのホタル。前胸が栗色をしていることからこの名前がついたと言われている。しかし、場所によっては前胸が黒色している個体もいる。雌雄は触角の形で区別できる、雄は触角が節毎に三つ叉に分かれている。雌は二叉。成虫は雌雄ともに微かに発光する。
・幼虫は8mm程で地中の浅いところ、地上で落ち葉の隙間などに潜んでいる。雨を好み、小雨の夜には、林道上に出てくる。陸地に棲み陸生の巻き貝やミミズなど多様な土壌動物を食べているらしい。



2:カタモンミナミボタル (Drilaster  axillaris)

カタモンミナミボタル卵 カタモンミナミボタル幼虫 カタモンミナミボタル成虫

・分布 本州・四国・九州
・山地から丘陵部、人家の周辺緑地、公園、神社の森など少数だが成虫の姿を見ることができる。
・体長は5mm程で、日本のホタルの中では一番小さい部類に入る。黒色の上羽の肩の所に栗色した斑点があることから、この名前がついたと言われている。目で見ただけでは雌雄の区別がつきにくい。発光しないと言われていたが、2007年夏に北九州市在住の萱野浩良氏によって、微かに発光することが初めて観察記録された。腹板の尾端に小さな発光器が見られる。
・幼虫は6〜7mmの大きさで、浅い地中に潜んでいるようで、日中見つけるのは難しい。そのために生態がよく分かっていない。食餌は陸生の小型の貝類を食べることは観察されているが、その他にも多様な土壌動物を捕食しているものと思われる。



3:ゲンジボタル (Luciola  cruciata)

ゲンジボタル卵 ゲンジボタル幼虫 ゲンジボタル蛹 ゲンジボタル成虫

・分布 本州・四国・九州。北海道や八丈島にいるのは、本土から持ち込まれたもの。
・日本で「ホタル」と言えばこの種のこと、日本にしか生息していない。体長1018mmもある大型のホタルで光りも強く美しい。場所により万単位で大発生することがある。
・幼虫は、川の流れから丘陵部の湿地やため池まで広く生息している。水生の貝類を食べているが、その他にも水生の多様な生き物、陸生のガの幼虫の死骸まで食べていることが今年(2010)の夏に神奈川県 平塚市在住の田中栄治氏によって確認された。この種は雑食性である。
・この種は、遺伝子解析の結果(鈴木)・(草桶)から46グル−プに分かれている。発光間隔に西型(2秒)、東型(4秒)とその中間型(3秒)の存在すること(大場)が知られている。しかし、この点についてはまだよく分からない部分もある。



4:ヘイケボタル (luciola  lateralis)

ヘイケボタル卵 ヘイケボタル幼虫 ヘイケボタル蛹 ヘイケボタル成虫
・分布 北海道・本州・四国・九州・千島列島・ロシアのシベリア地方・朝鮮半島・中国の東北部。
・成虫は体長5〜7mmと小型で、前胸の黒斑は「1の字型」でゲンジボタルと識別できる。
・湿地ばかりでなく、流水にも適応しているが、早くから日本列島に棲み着き水田耕作とともに生息域を拡大してきていたので、“60年代〜“90年代にかけて水田地帯で大量に使用された農薬の影響をまともに受け、米所では壊滅状態に追い込まれている。大都市近郊でも大規模宅地開発のため、生息地ごと埋め立てられて消滅した所が多い。ゲンジボタルよりも絶滅の危険度は高い。

・幼虫は、雑食性で水生の貝類だけではなく多様な水生生物を捕食している。



5:ヒメボタル  (luciola  parvula) 

ヒメボタル卵 ヒメボタル幼虫 ヒメボタル蛹 ヒメボタル成虫

・分布 本州・四国・九州・屋久島。
・体長6〜7mmの小型のホタルで、海抜1700m位の高山から街中まで多様な環境に生息している。特に東海・中部・近畿圏では、バス通り裏の小さな緑地にも生息しているので、ゲンジボタルと同様に人気があり名古屋城外堀のヒメボタルは大都市の特異な環境の中で繁殖しているホタルとして注目されている。
・通常のホタルは雌の方が大きいのだが、この種はなぜか雄の方が大きく雌は下羽がないために飛ぶことができない。そのために生息地によって固有性が高い。
・幼虫は陸上に棲み、陸生の貝類を食べることは確認されているが、その他にも多様な土壌動物を食べている可能性がある。



6:オオマドボタル  (Pyrocoelia  discicollis)

オオマドボタル卵 オオマドボタル幼虫 オオマドボタル蛹 オオマドボタル成虫
・分布 本州・四国・九州。
・山地から丘陵部の二次林内、竹林、林道端などにも生息している。
・この種の生息地はこれまで「近畿以西」(大場)と言われていたが、紀伊半島の中央構造線の外帯沿いに東海地方を東進し静岡県伊豆半島にも普通に生息している。この他少数の個体が岐阜県・長野県(穂高町)・神奈川県(箱根・丹沢山地)・東京都(多摩丘陵)でも採集されている。
・雌成虫は、羽が退化し飛ぶことができない。雄成虫は同属のクロマドボタルとよく似ているが、前胸の赤斑の形で区別できる。クロマドボタルとは交配が起きていて、中間種と見られる個体が各地で採集されている。幼虫の形態は、クロマドボタル・オオマドボタルの区別がむずかしい。
・幼虫の食餌は陸産貝類と言われてきたが、雑食性の可能性が高い。


7:クロマドボタル  (Pyrocoelia  fumosa)

クロマドボタル卵 クロマドボタル幼虫 クロマドボタル蛹 クロマドボタル成虫
・分布 本州・四国。これまで分布は近畿地方以東(大場)と言われていたが、20087月に四国の久万高原町 二名でこの種の雄成虫が山本栄治氏によって初めて発見、採集され四国での生息が確認された。
・生息地は、1,700mの山地から海岸近くの平地まで広く確認されている。
・体長は、雄が1012mm、雌が1214mm、オオマドボタル同様に雌成虫は羽が退化し飛ぶことができない。雄成虫は上羽が黒色で前胸の前縁に左右対称の卵形の小さな窓があり、これが名前の由来になっている。しかし、岩手県折爪岳(宇田川)・静岡県富士宮市佐折(蒔田)・東京都多摩丘陵で「窓」のない個体が採集されている。
・幼虫の背板には斑紋があり、多様な変異が認められこの変異は、同属のオオマドボタルの幼虫にも共通している。
・この種の幼虫の食餌は肉食性と言われていたが、20086月、埼玉県所沢市菩提樹谷戸で蒔田和芳氏が、この種の幼虫が樹液を舐め、草木上のダニ・クモなどの小動物を捕食していることを初めて発見した。雑食性である。


8:オオオバボタル  (lucidina  accensa)

オオオバボタル卵 オオオバボタル幼虫 オオオバボタル蛹 オオオバボタル成虫
・分布 本州・四国・九州。
・生息地は、山地が中心、最近は東京都の高尾山(600m)のように低地の山地にも降りてきている。本土産の陸生のホタルの中では一番大型でゲンジボタルと同じくらいの大きさがあり、前胸の赤い斑紋が大きく鮮やかで触角も長く、見方によってはゲンジボタルより美しい。
・この種の最大の特徴は本土産のホタルの中で唯一、幼虫の主要な生活場所が林地に転がる腐蝕した放置木の中だということ。幼虫は、自分で木に穴を掘ることはできないので、カミキリムシの穿った穴を借用している。幼虫の主食はミミズですが、この他に多様な土壌動物を捕食していると思われる。成虫は発光しないといわれていたが、2002年の6月、八王子市の上恩方町板当沢で羽化した当日から2日間、雄成虫の発光が初めて確認された。
・この種の幼虫はオバボタルと酷似していて判別が難しい。


9:オバボタル  (Lucidina  biplagiata)
オバボタル卵 オバボタル幼虫 オバボタル蛹 オバボタル成虫
・分布 北海道・本州・四国・九州。
・本土産の陸生のホタルの中では、成虫の発生期が最も長く、関東周辺では、5月末から9月末まで見られる。現在のところ最も遅い記録として、2009927日に東京都八王子市上恩方町板当沢での雌成虫の観察例が、東京大学理学部大学院生の梯さんより報告されている。
・同属のオオオバボタルとよく似ているが、前者が山地中心に対して、この種は丘陵地から神社の森・街中の公園緑地など多様な環境に適応している。一部に同種説もあるが、両種が同所で繁殖している生息地で観察しても、両種の交配は見られないので同種の可能性は低い。
・幼虫の外部形態は、同属のオオオバボタルとそっくりで判別は難しい。


10:スジグロボタル  (Pristolycus  sagulatus)
スジグロボタル卵 スジグロボタル幼虫 スジグロボタル蛹 スジグロボタル成虫
・分布 北海道・本州・四国・九州・奄美大島
・生息地は、山地から丘陵部、平地まで、小さな湿地や水溜まり、放棄水田跡の湿地など多様。一部でゲンジボタル・ヘイケボタルと共生している場所も見られる。
・はじめはホタルではなくベニボタル科に分類されていたが、後にホタルであることが確認された。
・幼虫は、1985818日に神奈川県川崎市生田緑地で「林 長閑氏」によって初めて発見された。
・成虫は体長78mmで小さく。濃い紅色をしている。上羽の黒筋の太さに変異があり、近畿地方や四国には亜種(佐藤)が発見されている。
・現在陸生に分類されているが、水の無い所に幼虫は棲めない。水中に入れておく限り死ぬことはない。しかし、水から出しておくと死んでしまうなど矛盾が多い。
・主に水生の貝類を捕食するが他の水生生物を捕食している可能性が高い。
・成虫は発光しないといわれていたが、羽化したばかりの個体は、雌雄ともに刺激を受けると微かに発光する。しかし、腹板尾端は黒色でのっぺらぼう、発光器らしきものはみつからない。