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ホタルとこの人 

このコーナーでは、ホタルの研究や保護に深く関わっておられる方々を紹介します。

― これまでの掲載 ―
第一回 荻野 昭(おぎの あきら) ※本文はこちらをクリック

第二回 ◇◆◇ 大谷 雅昭(おおたに まさあき)


1959
年 群馬県 藤岡市 生まれ

1981年 富山大学理学部 卒
1981年 高崎市立第六中学校教諭

20014〜20033 群馬大学大学院教育学研究科
教科教育専攻 理科教育専修

現在  富岡市立一宮小学校教諭

高崎市立第六中学校勤務当時からホタルの生態研究に取り組む。
現在  陸生ホタル生態研究会会員



※写真は 20101127日 藤岡市日野にて撮影(小俣)

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1 クロマドボタル幼虫の背板斑紋の変異について新たな研究の扉を開いた人
 本土産マドボタル属幼虫の背板の斑紋に地域性と変異のあることは、「日本産マドボタル属幼虫の色彩斑紋パターン」(大場信義・後藤好正・川島逸郎 横須賀博研自然1995)によって報告されていました。しかし、この中で変異として明らかにされていた内容は、次のように三つの形で、その分布・地域性も、全紋型が東日本、四紋型が西日本、無紋型が関東山地の東京都・神奈川県・山梨県の都県境の陣場山付近とされていました。

 これに対して、大谷氏は2001年に、群馬県藤岡市日野のクロマドボタル幼虫の背板斑紋の調査結果から上述の「大場・後藤・川島」研究では、説明できない変異のタイプが藤岡市に存在することを発表し、この研究がその後の本土産マドボタル属幼虫の背板斑紋変異調査研究の突破口となりました。この詳細については、「第二グル-プと群馬県藤岡市の調査 大谷雅昭」(日本産ホタル10種の生態研究2006年板当沢ホタル調査団編 P238242)に詳しく記載されています

 板当沢ホタル調査団では、この大谷氏の研究を記念して、本土産マドボタル属幼虫の背板斑紋変異の第二グル-プに「大谷雅昭型」という名称を付けました。



 

2 群馬県藤岡市日野上平を訪ねて

 今回、「ホタルとこの人(第二回)」の執筆にあたり、大谷氏にお願いして小俣がこの地を201011月に訪ねてみました。日野の上平地区は、藤岡市内から県道175号線を西に23km程走った所にあり、標高360m利根川の支流鮎川沿いにありました。


1


2グル−プ(大谷雅昭型)発見の地


これが県道
175号線、立像は大谷氏。立っているところの法面、叢の中に夜間、点々とクロマドボタルの幼虫が光っていたわけです。


2


手前の所に廿三夜の庚申塔がありました。

江戸時代に建てたものらしく、この道はかつて秩父と藤岡市の交通の要所だったのでしょう。


3


クロマドボタル幼
虫の生息する法面は道路沿いの南向き斜面で大変日当たりの良い所でした。低木と一部アズマネザサが茂り、オオバジャノヒゲなどに覆われていましたが、4図の写真のように地面は礫層で、短時間の調査では、陸産の貝類は見つかりませんでした。


4


3図の法面のアップ。礫層なのに湿り気は多く、南面の割には乾燥していませんでした。このことが、クロマドボタルの幼虫の生息に好条件となっているのかもしれません。


 大谷氏とクロマドボタルの出会いは、1996年当時、勤務先の小学校に通勤するため自宅からこの県道175号線を車で毎日通っていた時に、地元の友人から、「群馬県 藤岡市 日野上平の県道沿いの南斜面に夜間点々と発光している幼虫がいる」と、いう話を聞いて調査をしたのが始まりだそうです。今から15年前になります。この時以来大谷氏はここをフィ−ルドにクロマドボタルの生態研究を現在も続けておられます。
 

3 大谷氏のもう一つの研究 

 この藤岡市日野上平でのクロマドボタル幼虫の研究に続いて、もうひとつ大谷氏には大変ユニ-クな研究があります。これは2001年当時、群馬大学大学院教育学研究科に留学中だった時の研究で、「クロマドボタル幼虫と捕食者の相互関係」という論文です。上記「日本産ホタル10種の生態研究」のp137p146にも掲載されています(注 この論文と上述のクロマドボタルの背板斑紋変異に関する論文は、合わせて、大谷氏の群馬大学大学院教育学研究科における修士論文になっています)。

大谷氏は、この研究について、論文の冒頭で次のように述べています。

 「発光するホタルは、捕食者に認知されやすいという欠点があるために、何らかの防御手段を持っているものと考えられ(中略)、日本のホタルでは、Ohba  and  Hidaka2002)が野外と室内において、体液分泌と捕食行動が示されるとともに、捕食者と考えられる動物との相互関係が提案されているが、十分証明されたとは言えない。また、ホタルの幼虫期における液体分泌と捕食者の相互関係は、ほとんど調べられていない。そこで、本研究ではクロマドボタル幼虫を用いて、忌避性の液体分泌と発光の様子を調べ、それと捕食者との相互関係について、室内実験と野外観察により、その実態を明らかにすることを目的とした。(後略)。注(日本産ホタル10種の生態研究P137から引用)」。

 ホタルの幼虫と捕食者の件についてはこれまでにも、噂話としては、いろいろ言われてきましたが、研究する者が少なく定かでありませんでした。したがって、私達の知る限り現状ではこの大谷氏の論文が調査内容とその解析結果と合わせて最も詳しい研究論文です。その研究内容の項目を紹介しますと、次のようになっています。

 1 幼虫の体液分泌の確認

 2 分泌された液体の忌避性実験

 3 捕食実験

 4 発光観察

 5 考察
  ・忌避物質分泌と捕食者との相互関係
  ・発光と捕食者との相互関係
  ・擬死

 この論文は、陸生ホタル生態研究会HPの「研究・資料」欄に掲載いたしますので、そこでも是非ご覧になってください。 (以上)